BCP策定推進フォーラム2021開催レポート ~全体総括~

東京都中小企業振興公社は3月2日、「感染拡大でも事業を止めるな!社員が一定数感染しても事業を継続させる手法」をテーマとするBCP策定推進フォーラムをオンラインで開催した。
第1部では、国際医療福祉大学大学院教授の和田耕治氏と、ミネルヴァベリタス株式会社顧問/信州大学特任教授の本田茂樹氏がそれぞれ基調講演を行った。第2部では、株式会社ランクアップ代表取締役の岩崎裕美子氏、株式会社タカミエンジ代表取締役の室田正博氏、大成化工株式会社代表取締役社長の稲生豊人氏の3者が事例発表を行った。

第1部 基調講演1

国際医療福祉大学大学院の和田氏は『会社と社員を守る新型コロナウイルス対応~感染者が出ても慌てないために~』と題し、「会社と社員、そして社会を守ること」をゴールとして、職場での具体的な感染対策や、感染した社員への対応の方法を知り、実践するための考え方を説明した。
和田氏は冒頭、オミクロン株の流行に対応した新型コロナ対策の目的として、(1)医療逼迫や社会機能不全に陥らない程度に感染者数を抑制する、(2)医療や介護、教育をはじめとした社会機能への影響を最小化にする、(3)高齢者や基礎疾患のある人たちへの医療を確保しつつ、一般診療も同時に両立することで、死亡者数を最小化する、という3点を紹介。これらの並び順に留意し、「ピークをなるべくなだらかにしていくこと、そしてその間にワクチン接種もしていくということ」が大切であると述べた。
その上で、職場での感染対策や、感染した社員への対応のポイントを解説。職場でのクラスターを発生させないため、「三密」となる場面への対策のほか、症状のある社員が安心して休めることや、感染後に職場復帰する社員に対して「差別や偏見が起こらないように、温かく迎えて」いくことなどの配慮も不可欠と指摘した。
和田氏は、今後の感染拡大リスクに対する考え方として、「医療の状況に応じて、日常生活の中で出来ること」をリスクの低いものから「足し算型」で積み重ねていく対応が必要と強調。社員が感染した状況についても「チャンス」と捉え、「我が社の対応、職員を大事にする対応をみんなに知ってもらう良い機会」であり、「丁寧に対応することで、みんなが、この会社で働いてよかったなと思っていただければいいのではないか」との考えを示した。

第1部 基調講演2

和田氏に続いて登壇したミネルヴァベリタスの本田氏は、『感染症BCPのポイント~従業員の1割が欠勤しても事業が継続できる体制整備~』と題し、 “二段構え”のBCPと、感染症BCPのポイントについて解説した。
本田氏は、BCPの定義として、不測の事態が発生しても「重要な事業を中断させない」こと、さらに「中断しても可能な限り短い時間で復旧させる」という、防災とBCPの“二段構え”で、事業継続のための方針、体制、手順などを示した計画であると説明。防災の方法は「災害の種類によって異なる」ため、感染症に対しては「感染予防対策を的確に講じる」ことが重要と指摘した。
続いて、本田氏は、感染症BCPのポイントについて、自然災害の場合と比較しながら解説。その上で、「欠勤者を想定したBCP」として、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく事業者向けガイドラインにおいて、従業員が最大4割欠勤したことを仮定した人員計画の立案が指導されていることを紹介。また、介護施設事業所の業務継続ガイドラインでは、欠勤率1割の場合には、ほぼ通常の業務を行えるように指導されていることを説明し、一般企業においても代替要員の確保や優先業務の絞り込み、スプリットチーム制による対応、クロストレーニングといった備えを平常時の段階で進めることが重要と述べた。
最後に、本田氏は、「他社で起こったことは自社でも起こる」(備蓄の見直し)、「認識すれば準備できる」(手順・訓練、複合災害への備え)、「リスクコミュニケーション」(正しい情報を的確に入手)の3つのポイントを説明し、「ぜひ、平常時の今から準備をスタートさせていただきたい」と強調した。

第2部 事例発表1

フォーラムの後半では、BCPやリスクマネジメントの取り組みにより、コロナ危機の中でも成長を続けている企業3社の経営者による事例発表が行われた。
株式会社ランクアップの岩崎氏は、『女性活躍に向けた環境整備が我が社のBCP~感染対策+テレワークで社員のモチベーションも向上~』と題し、同社が「一生活躍したい女性が諦めなくていい会社」を目指す中で、コロナ禍において講じてきた対策や取り組みを発表した。
岩崎氏は冒頭、同社が「たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する」という理念のもとで化粧品製品を展開する一方、「一生活躍し続けたい女性が諦めなくていい会社」を目指し、時短勤務制度、時間休、病児ベビーシッター、子連れ出社といった、“出産しても働きやすい制度”を導入していると説明。産休・育休の取得率、復帰率ともに100%となっていることを報告した。
コロナ禍での取り組みについて、岩崎氏は、同社がテレワーク環境を早期に整備し、申請によって在宅・出社を組み合わせた働き方を可能にしているほか、時差出勤やスーパーフレックス制度、“土日働いてもいいよ制度”といったフレキシブルな働き方を導入。社員が有給休暇を消費せずに仕事と家庭のバランスを維持でき、会社も業務を継続できる体制を整備していることを紹介した。
また、岩崎氏は、現在のような変化の激しい時代においては、新たな制度を導入する際、就業規則に入れてしまう前に、まず運用してみて、あまり社員に使われない制度であれば廃止するといった経営者の臨機応変さが重要であると指摘した。

第2部 事例発表2

続いて登壇した株式会社タカミエンジの室田氏は、『台風をきっかけに策定したBCPがコロナ対策にも役立った〜対応をフロー図化し、チャットを多用〜』と題し、台風発生時やコロナ禍におけるチャットを用いた情報共有などの取り組みを発表した。
室田氏は、同社のBCPへの取り組みが、2018年の台風21号による被害をきっかけにして始まったことを紹介。大阪府内の各地で発生した停電や自社社屋のシャッターの損壊などから経営に不安を覚え、一カ月後にBCP策定を決定。電源をはじめとする防災備品を揃え始めたと述べた。
また、BCP策定以前から社内で活用していたチャットに「緊急用BCP」というグループを作り、「日常の中でタイムリーに情報交換ができて、指示ができて、現場でも動いていける仕組み」を構築。2019年に発生した台風では、気象情報や、施工現場への指示を発信するなど、連絡手段として活用できたことを報告した。
室田氏は、2020年2月から始まったコロナ禍での対応として、感染対応のフロー図を作成し、大阪本社と東京支社が所在する各自治体の保健所情報などをまとめてチャットで共有。そのほか、社内でPCR検査を定期的に実施しながら、ワクチン予約の空き情報などもチャットで共有するといった取り組みを紹介した。また、今年1月末には社員が家庭内での濃厚接触から陽性となったことに触れ、その際にも双方向で情報を発信・共有できたことを報告した。

第2部 事例発表3

大成化工株式会社の稲生氏は、『感染対策をしながら、組織力向上!〜コロナで我が社は強くなった〜』と題し、コロナ禍などをきっかけに世界が大きく変わっていく中で、同社が「生き残り」に向けて実践してきた取り組みを発表した。
稲生氏は、同社の創業の精神の一つに「いかなる環境においても、会社を存続・発展させたい」というBCPの原点があることを紹介。大成ホールディングスのうち、自身が統括するケミカル事業の大成ファインケミカルにおいて2009年にBCPを初めて策定し、コロナ対応は2012年策定の新型インフルエンザに対応したBCPをベースに行っていると説明した。
一方、稲生氏は、「グレートリセット」と呼ばれる激しい環境変化の中で「広い意味でどう生存していくかということが重要」との考えを示した上で、今回のコロナ禍では、中間材のみを扱ってきた同社にとって厳しい現状を突きつけられたことを報告。そうした状況下で、業務・詰替用除菌アルコールの販売による「営業の突破」に取り組んだことや、生産体制として2チームによる「週休三日制」を導入し、感染対策と供給維持、さらに設備の生産性改善も実現したことを報告した。
そのほか、稲生氏は、同社のパート社員の子供が感染したものの、家庭でのクラスター予防のためにUV殺菌装置などを提供することで、家族への感染を防ぐことができたことを報告。こうした対応が各事業所長を中心として行われており、顧客・社員・社員の家族を守りながら「これからも生き残っていこう」という「役割意識」が育っていったという手応えも示した。

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