BCP策定推進フォーラム2020開催レポート ~事例3~
地震対策のBCPはコロナにも有効に機能する
~物流の安定を縁の下で支える多段階対応策~
株式会社生出 代表取締役社長 生出 治 氏
私たちは今、自然災害やパンデミック、また様々な経営リスクに直面しています。これらを乗り越えていくためには、経営体質の強化や強靭化の施策がとても重要になると思っています。
当社は、東京の西部にある瑞穂町を拠点に、軟質プラスチック製品の製造や包装材の設計、包装サービスなどを行っています。主要なお客様は、精密機器、医療機器、電気・自動車部品のメーカー様になります。BCP策定においては、「従業員の生命と安全の確保」、「事業の継続性の確保」に加えて、「企業体質の強化」を目標として設定しています。
BCPの具体的な取り組みとしては、同業者や仕入れ先との連携を特に重視してきました。代替生産体制を多段階で準備する3つの対策で、現在のパンデミックに対してもこの方法で対応策をとっています。
第一の対策は、予備在庫の確保です。通常は平均的な発注予測量に基づいて1週間分をストックするのですが、これを現在は20〜30%増量して、本社の周辺にある3カ所の倉庫に分散して積み増しを行っています。第二の対策は、協力会社による代替生産です。現在、30年以上取引の実績のある外注先に、総生産量の約2割の製造を委託しています。外注先は、加工機械など主要な生産設備はほぼ同じで、品質基準も当社と同等のレベルを維持しています。いざという時には、最大で総生産量の約5割程度はカバーできると見ています。第三の対策は、同業者に代替生産を委託する方法です。関東を中心とした同業8社と災害時における相互委託加工契約という協定書を結び、いざというときにお互いに助け合う仕組みを作っています。このグループでは、昨年成立した中小企業強靭化法に基づく専門家支援を受け、事業継続力強化計画に取り組んでいます。
また、非常時におけるサプライチェーンの強化では、1社あたりの発注量を増やし、より関係を深めていく方法をとっています。その代わり、一次仕入れ先、二次仕入れ先の会社にも委託先を作ってもらうという、いわば多段階で供給が止まらない仕組みです。
BCPは日常業務にもプラスに
BCPは理念やビジョンを実現するための経営としての重要な戦略の一環です。BCPの本質が事業継続や企業の永続的存続にあり、企業を強靭化する戦略そのものであると考えれば、これほど重要な取り組みはないのではないかと思っています。
緊急時に大切なことの一つは、日常の業務をどれだけ通常に近い形で早期に復旧させられるかだと思います。当社では、非常時にも対応できるように、日常業務から改善を進めています。業務改善のポイントは、属人化をなくしていくことです。具体的には、日常業務において、重要なプロセス、あるいは属人化しやすいプロセスを特定し、他の人でも同様にできるようにマニュアル化を進めます。その上で、業務の担当を複数にして、特定の個人にしかできない業務をなくしていくことです。
現在は、担当1人の業務を極力なくし、1つの業務を社員間でカバーし合うという環境がだいぶできるようになりました。これにより、体調を崩しても業務を止めるわけにはいかないという社員の心理的負担をだいぶ軽減できているのではないかと思います。コロナ禍においては、在宅ワークの環境を整えることと同様、とても重要なテーマになると思います。
当社がBCPに取り組んだきっかけは、取引先からの要請でした。しかし、活動を進めるうちに、BCPは日常業務にもプラスになり、お客様からの信頼を得るためにも大事なことなのだと理解してくれる社員が出てきました。事業継続能力を高める一連の対策は、業務の効率化や経営資源の見直しにつながり、経営理念の達成にもつながることになります。こうしたことに社員が気づき、共感を持って受け入れ、少しずつですが意識も高まることにつながっているのではないかと思います。