BCP策定推進フォーラム2020開催レポート ~事例2~
社員一丸でまわすリスクマネジメント
~環境対策、情報セキュリティそしてコロナ対策~
株式会社マルワ 代表取締役 鳥原 久資 氏
当社は社員30人ほどの、どちらかというと小さな会社です。1958年に先代の父親が創業し、私が二代目の後継者社長です。事業内容は、印刷、デザイン、それから企画に力を入れる、ほぼ広告代理店に近い機能です。品質、環境、情報という3つのISOを取得し、特にグリーンプリンティングという環境マークを始め、森林認証、ゼロカーボンプリントといった環境への取り組みにこだわってきました。
小規模の会社が独自化戦略を展開する場合、本業ではなかなか勝てません。環境を含めたISO取得は、当社の独自化戦略でしたが、その中に緊急事態対応計画という内容があり、これがBCPに取り組むきっかけになりました。
当社では、2007年にBCPを作成し、2009年に感染症対策を盛り込んでいたわけですが、残念ながら今回のコロナ対応では役立ちませんでした。昨年3月頃から具体的に計画書の見直しを行い、HP等での対応の周知、チーム制の勤務、非接触系の検温器の導入、ビニールカーテンやアクリル板の設置などに取り組んできました。8月決算の段階で事業継続計画の再見直しを行っています。
当社の母体は印刷会社ですので、印刷機や加工機を使用し、配送業務が発生します。政府からのリモート要請に伴い、リモートでできる業務と、できない業務を選別し、在宅勤務によるリスク対策を役席者で構成される運営委員会で考えました。その結果、チーム制をとり、全員が交代で在宅勤務をすることになりました。緊急体制に伴う在宅勤務の覚書を係の社員と一緒に作り、緊急連絡網の手順書も作り直して、全社員に配布。その上で、4月の終わりからチーム制の交代勤務制をスタートしました。
一方、当社では情報発信を得意としており、様々な情報に関するニュースペーパーを配信しています。コロナ対応に関する内容では、在宅ワークの情報セキュリティリスク対策について、お客様、協力会社などにメールや請求書に同封して発信し、非常に喜んでいただきました。そのほか、マスクが手に入らない時期には、立体マスクの生地を作るためのベースを拵えて配布し、最近ではマスクケースを作って東日本大震災の被災者で名古屋に暮らす方々や、子供食堂にも無償で配布しました。印刷会社だからこそできる強みだと感じています。
自分たちの会社を守る、社員目線でのBCP作成
BCPを継続させるため、当社では意識化をさかんに行っています。1年に1回、決算後の期初に、避難訓練とともに、近くの消防署から模擬の消火器を借りて訓練をやっています。また、緊急連絡先の登録用紙を必ず記入させ、自分だけでなく、同居の家族の避難場所まで書かせています。BCPの概要版も作り、年に一度、復習の意味で勉強をしています。身近なところでは、非常食、備蓄品、救急用品の備蓄をしています。緊急連絡網ではラインを使い、平時から緊急連絡網での発信をしています。
BCPに取り組んでいるというのは、非常に大きな発信、必要とされる発信ではないかと思います。中小企業というのは独自の技術を持っていて、ひょっとしたら1社しか持っていない場合があります。サプライチェーンでその1社がダメになったら、経済が混乱します。また、正常性バイアスという、都合が悪いことを「起きるはずがない」と無視してしまう人間の心理がありますが「起きるはずがない」という根拠はまったくありません。BCPによって、何をおいても文書化しなければいけないのは、こういうことを止めるためでもあります。
BCPの作成は、社員に手伝ってもらえばいいのです。自分たちの会社を守るということを社員目線で感じてもらえば、何も難しいことではありません。「多能工」、つまり一人で何役もやるということも、そうした意識を培う上で大切なことです。これからの企業にとっては、本業も大事ですが、社会に必要とされる取り組みこそ認知されていくだろうと思います。