BCP策定推進フォーラム2020開催レポート ~全体総括~

東京都中小企業振興公社は1月28日、「コロナ危機を生き抜くBCPの運用方法」をテーマとするBCP策定推進フォーラムを都内で開催した。
第1部では、株式会社東京商工リサーチ情報本部情報部部長の松永伸也氏が基調講演を行ったほか、新建新聞社リスク対策.com編集長の中澤幸介氏が感染症を考慮したBCPについて解説した。第2部では、大成化工株式会社代表取締役社長の稲生豊人氏、株式会社マルワ代表取締役社長の鳥原久資氏、株式会社生出代表取締役社長の生出治氏の3者が事例発表を行なった。

第1部 基調講演

東京商工リサーチの松永氏は「コロナによる中小企業への影響と今年の景気を読み解く~災害や不況に負けない企業の条件~」と題し、新型コロナウイルス感染拡大に伴う企業倒産の動向と企業への影響、危機を乗り越えるために企業に求められることなどについて話した。
松永氏は、リーマン・ショック後に施行された時限立法の中小企業金融円滑化法が期限を迎えたことで増加するとみられていた2020年の企業倒産件数が、新型コロナに伴う政府・金融機関による資金繰り支援の効果で7773件まで減少し、30年ぶりに8000件を割り込んだと説明。一方で、企業倒産の集計対象外となる負債1000万円未満の倒産件数が2000年以降で最多となっていることを指摘した。
松永氏は、コロナ禍で影響を大きく受ける「コロナ関連7業種」が対人接触型、労働集約型の産業であり、固定比率が高い会社という共通項があるとし、今後はそうした企業から製造業や卸売業にも影響が及ぶことに懸念を示した。また、同社の顧客アンケートの結果から、中小企業の減収率が2020年9月まで6ヶ月連続で8割超に及んでいることや、廃業を検討する企業が8.6%にのぼる状況から、今後、政府による意図的な対策が講じられない限り、「倒産は確実に増えてくるのではないか」との見方を示した。
最後に、松永氏は、多難を乗り越えて創業から百年以上を生き延びる企業の特徴を紹介した上で、コロナ禍で苦境に立たされる企業が存続していくためには、多角化などによる「柔軟な経営」が有効であると指摘した。

第1部 解説

松永氏に続いて登壇した新建新聞社の中澤氏は、「感染症を考慮したBCPのポイント」と題して解説を行った。中澤氏は、パンデミックなどの段階的拡大事象に対するBCPについて、自社や取引先の従業員が感染し、会社が成り立たなくなる懸念に対し、「これ以上落としてはいけないという操業度レベルをしっかり決め、場合によっては戦略的に在宅勤務にして出社率を下げながら、何とか乗り切って通常業務に戻していく」イメージであると説明。ポイントとしては、「感染者が出て、広まってしまったとしても事業を継続できるように、特に“人”にスポットを当てて考えておく」ことや、「リスク・トレードオフ」の問題を踏まえて最も有効な対策を講じていくことが重要と述べた。最後に、感染症BCPに限らず、常に課題に対して「検証・改善」を行うことの重要性を指摘した。

第2部 事例発表1

フォーラムの後半では、実際にコロナ危機を乗り越え、経営改善やサービス向上など成長につなげた企業3社の経営者による事例発表が行われた。
千葉県成田市を拠点に、顔料分散と機能性コーティング材の開発・製造・販売および受託加工を手がける大成化工の稲生氏は、コロナ禍によって中間材の受託や開発テーマが中断し、既存の売り上げが激減する中、2つの固定観念の「突破」を実行することで危機を乗り越えることができたと話した。
営業面の「突破」では、同社初の商品事業に取り組み、業務用除菌アルコールの製造販売を開始。化学原料の調達・配合のノウハウや、人口の多い関東地方の地の利を生かし、1200件ほどの販売先を開拓した。製造面の「突破」では、従業員間の接触を抑えるため、製造チームを2班に分けて新たな勤務体系を確立することで、「リスクを回避しながら生産性を上げ、販売品目に対応する体制」を実現したと報告した。
そのほか、コロナ対策では、抗原検査・PCR検査キットを従業員の家庭へ配布していることや、毎年開催の合宿による会議の開催について、コロナ後への危機感から開催の方針を維持し、出席者やその家族への配慮を含めた対策について慎重に検討していることなどを紹介した。

第2部 事例発表2

愛知県名古屋市で印刷・デザイン・企画を手がけるマルワの鳥原氏は、コロナ禍での対応経緯を中心に、BCPの取り組みや、小規模の会社としての独自化戦略について話した。
鳥原氏は、同社が2007年にBCPを作成し、2009年に感染症対策を盛り込んでいたものの、コロナ禍では昨年3月の段階で計画書の見直しを行ったと説明。4月には、緊急事態宣言に伴うチーム制の交代勤務制を導入し、HP等での対応の周知、非接触系の検温器の導入、ビニールカーテンやアクリル板の設置などを進めてきたと報告した。
また、同社が得意とする情報発信の強みを生かし、顧客へのコロナ対策の情報提供や、マスク不足の際に立体マスク生地を作るためのベースを配布するなど、「印刷会社だからこそできる」取り組みを行なってきたことを紹介した。
鳥原氏は、2007年以来のBCPの取り組みの中で、平時から緊急連絡網を活用するなど意識付けを行なっていることや、人間心理にみられる正常時バイアスに対して、文書化による危機管理が必要であるとの考えを説明。その上で、BCPは現代のサプライチェーンにおいて「非常に大きな発信、必要とされる発信ではないか」と強調した。

第2部 事例発表3

東京都瑞穂町を拠点に、軟質プラスチック製品の製造や包装材の設計、包装サービスなどを行う株式会社生出の生出氏は、BCPの具体的取り組みとして、多段階での代替生産体制の準備や、経営体質の強化・強靭化に向けた日常業務改善の取り組みを話した。
生出氏は、代替生産体制を多段階で準備する3つの対策として、(1)予備在庫の確保、(2)協力会社による代替生産、(3)同業者への代替生産委託、に取り組んでおり、現在のパンデミックに対してもこの方法で対応策をとっていると説明。予備在庫の確保では、通常より20〜30%増量し、本社の周辺にある3カ所の倉庫に分散して積み増しを行っているほか、同業者への代替生産委託では、昨年成立した中小企業強靭化法に基づく専門家支援を受けて事業継続力強化計画に取り組んでいることを報告した。
また、生出氏は、日常業務の改善として、重要なプロセスや属人化しやすいプロセスを特定し、他の人でも同様にできるようにマニュアル化を進め、業務の担当を複数にして特定の個人にしかできない業務をなくすように取り組んでいると説明した。
最後に、生出氏は「BCPの本質が事業継続や企業の永続的存続にあり、企業を強靭化する戦略そのものであると考えれば、これほど重要な取り組みはないのではないか」との考えを示した。

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