BCP策定推進フォーラム2020開催レポート ~解説~

感染症を考慮したBCPのポイント
新建新聞社 リスク対策.com編集長 中澤 幸介 氏

BCPは、会社の普段の経営において、主要な経営資源が、災害などにより使えなくなるような影響をなるべく受けないようにするとともに、仮に受けたとしても代替の手段で事業を続けたり、あるいは早期復旧できるようにする。万が一、事業が止まってしまっても在庫や資金調達などでやり繰りできるようにするための計画です。ただし、あらゆる事業に対してではなく、あらかじめ会社の中で優先的に守る事業を決め、その事業の操業度も最低限どのくらいのレベルが必要なのか目標を明確にしておくことがBCPの醍醐味と言われるところです。
感染症BCPの場合、スタッフや、取引先のスタッフの方が感染し、業務が1つ、2つと止まり、事業が止まり、本当に長期化すると会社そのものが成り行かなくなる懸念があります。それに対して、これ以上落としてはいけないという操業度レベルをしっかり決め、場合によっては戦略的に在宅勤務にして出社率を下げながら、何とか乗り切って通常業務に戻していく。これがパンデミックなどの段階的拡大事象に対するBCPのイメージだと思います。
優先的に守る事業とは、社会・市場への影響がある事業や、法規制によって止めることが許されない業務です。実際には、災害の状況はどんどん変わっていきますし、需要の変動もありますので、事業を特定することは言うほど簡単ではないのですが、その事業が止まらないように、最適な事業継続戦略を立てる必要があります。
事業継続の手段は、感染症想定と地震想定の双方に役立つものもありますが、必ずしも一致しない対策もあるため整理しておくことが必要です。例えば、事前対策としての消毒液・マスクの備蓄や感染症予防教育はどちらにも有効ですが、耐震補強や転倒防止などは感染症想定に役立ちません。一方、こうした原因を特定して対策を行うと、どうしても見落としが出てきますので、地震や感染症を想定して計画を作るのではなく、経営資源ごとに「社員が出社できない状況になったら」「会社が使えない状況になったら」など「リソースベース」で対策を考えて作っておく方法もあります。ただし、その場合にも、想定する事象を洗い出し、どのような事象が自社にどのような影響を及ぼすのかはBCP文書に記載した方がいいでしょう。

常に検証、改善していくこと

感染症を想定したBCPのポイントは、大きく3つに集約できます。ポイントの1つ目は、感染者を出さないようにするということ。2つ目は仮に出ても、それ以上広まらないようにすること。3つ目は、仮に感染者が出て広まってしまったとしても事業を継続できるように、特に「人」にスポットを当てて考えておくことです。
ポイントとして、もう1つ考えておくべきことは、「リスク・トレードオフ」の問題です。たとえば、コロナ対策としてのテレワークがもたらすリスクに、従業員の健康メンタルヘルス、コミュニケーションの低下、セキュリティの被害などがあります。自動車通勤では、交通事故や違法駐車といった落とし穴があります。そうしたリスクを踏まえ、どの対策が一番有効なのかを考えながら講じていくことが重要です。
最後に、感染症想定に限らず一番重要なことですが、欧米で「アフター・アクション・レビュー」と呼ばれる「検証・改善」を行うことです。何が課題だったのか、次にどうやって直さなければいけないのか。その改善点を常に解決しながら、次の行動計画に役立てていくことです。2010年7月号の『リスク対策.com』では、前年に流行したH1N1新型インフルエンザの特集を組み、「10年後の担当者が困らないように」と改善を促しましたが、10年後に予言書のように当たり、ほとんどの部分が改善できていませんでした。どうすべきだったのか、どう改善するのかを常に考えていくことが大切ではないかと思います。
単にBCPの文書を改善すればいいということではなく、トップの資質、リーダーシップ、事務局の能力、スタッフの能力、平時からの組織文化、経営環境といったものも常に見直しながら事業継続能力を高めていく。そうした取り組みは、事業継続につながるだけでなく、継続的な事業改善につながり、さらには事業創造に結びついていくと思います。

関連記事