BCP策定推進フォーラム2019開催レポート ~パネルディスカッション①~
お客様の物流を止めない
川崎陸送株式会社 取締役社長 樋口 恵一氏
『まずは停電に備えよ』
当社・川崎陸送は1924年に創業しました。運輸・倉庫業を営んでおりまして、食品、主に菓子と飲料を手がけています。特に溶けたチョコレートを運送することができ、この部門の全国シェアは2割を占めております。何があってもお客様の物流を止めない。もし止めてしまったら顧客の仕事がなくなってしまうかもしれない。そういう覚悟で日々業務に取り組んでいます。
商品の販売にはマーケティングの4Pと言われる製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、場所(Place)が重要となります。必要な物を、必要な場所に運び、適正な価格で、プロモーションするということです。当社の仕事は場所に関わる仕事を請け負う3PL(サード・パーティーロジスティクス)であり、当社の仕事を下支えするのがBCPと考えています。
近年の災害を振り返ってみます。昨年の北海道胆振東部地震、北海道は大手の乳業会社が多いのに、バックアップ電源を用意していたのは、よつ葉乳業だけとのことでした。私が翻訳した「『事業継続』のためのサプライチェーン・マネジメント実践マニュアル」(プレジデント社)という本の著者であるベティー・キルドウ氏は「まず停電に備えよ」と呼びかけていることも紹介させていただきます。
私が感じた東日本大震災の教訓をご紹介します。(1)すぐに動けるトラックはない(2)みんな下請けで、自分で配車できない(3)緊急にドライバーを集められない(4)大手が実際に車を持ってない(5)ドライバーが被災地に行くのを怖がる(7)何をしていいかわからない経営者(8)被災地からの救援依頼がないと動けない―。こういった課題を感じました。
教訓から、運送業として止めてはいけない機能を考えるようになりました。トラックや倉庫、情報、流通加工といったものです。それと優先すべき顧客である荷主、地域・地区もふくめて、止めてはいけないものを、現場と話し合ったうえでトップが責任を持って決めておく必要があると考えています。
さらに当社の止めてはいけないものを深掘りします。(1)在庫データ(2)倉庫の温度管理(3)従業員の給与―です。在庫データとは賞味期限や出荷履歴です。倉庫の温度管理をしっかりしないと、チョコレートが溶けてしまいます。さらにデータのバックアップをとって、この3つをしっかりすればあとはどうにかなるものです。
発電機も調達しました。韓国製の発電機です。出力は380キロワット。注文から3カ月で届き、日本製の3分の1の価格です。ディーゼル式ですので、ディーゼル車や機器を多く取り扱う当社でもメンテナンスをしやすく、助かっています。さらには電動フォークリフトのバッテリーを使って、パソコンなどへのバックアップ電源にしています。
通信手段では、世界的なネットワークでサーバーが落ちにくいツイッターに65人が登録して、連絡をしあいます。他に月1回避難訓練も行いますが、停電を想定した真っ暗な倉庫の中でやるのです。ころぶ人もいますが、体で覚えてもらいます。それと従業員には家族の安否確認も心掛けるように伝えています。このように方針をトップが決め、平時から意思疎通をさせることこそがBCPであると考えます。