BCP策定推進フォーラム開催レポート ~パネルディスカッション⑤~
BCPは有効に機能するか ~BCP定着のポイントとメリット~
アニコム損害保険株式会社 監査役 岡部紳一氏
2006年から国際標準化機構(ISO)でBCPに関する規格の策定が始まり、私もその委員を務めています。その関係でBCP導入企業がどのくらいBCPを定着させているのか、非常に関心があります。現実には、BCPの定着に悩んでいる企業が少なくないようです。
平成26年から東京都が行っているBCP策定支援事業へ参加した中小企業を中心にアンケート調査を実施しました。BCP導入企業のうち、BCPが「定着」「ほぼ定着」しているという回答が38%、「定着していない」という回答が62%でした。
そこで、BCP作成・定着にどのような要素が関連し、さらに原因となっているかを分析しました。BCP作成の理由は非常に明快で、「社長の指示」でした。社長が指示した理由では、「自社の態勢不備が不安」「社長の時に会社を潰せない」「営業上のプラス」と非常に興味深い3項目が上がりました。
一方、社長指示はBCP定着の原因でないことが、分析結果から確認されました。社長が指示してもBCPは定着しないのです。BCPを定着させる原因要素としては、「BCP環境」と「企業風土」から、いくつかの要素が浮かんできました。
BCP定着の原因要素と認められた「BCP環境」から浮かび上がったのは、「有能なBCPリーダー」「BCP必要性の認識」「関係部署の参加」「コンサル後、自分で進められる」「社員の盛り上がり」の6項目。この中でも「社員の盛り上がり」は他の項目に比べてBCP定着と相関性が強く、BCP定着のキーワードであることを示していました。「社員の盛り上がり」とは何かを分析すると、「関係部署が広く参加している」「想定すべき具体的な緊急事態が社員で共有されている」「PDCAが回っている」「社外の支援のあと、自社内で進められる」との相関関係が認められ、こうした社内のBCP活動状況を示していることが分かりました。皆さんの会社で「BCP環境」を自己診断する場合に、これらの項目をチェック項目として使用できます。
「企業風土」は、BCP定着のバックボーンとして非常に重要です。分析の結果、BCP定着の原因要素として、「企業風土」から4つの要素「全社情報共有」「社員の一体感」「社内の風通しが良い」「現場に権限付与」が出てきました。このような「企業風土」が「BCP環境」に影響を与え、BCP定着を後押しする原因要素として働いていることが分かりました。
私の調査分析でやや意外な発見だったのは、BCPを定着させている企業のトップの方が、BCPの定着によって、BCPや災害対策とは別に、平常業務で幅広いメリットを生じていると認識していることでした。この点を分析した結果、BCPの定着が原因となって、「営業上のプラスになった」「信用力が上がった」「業務の改善につながった」「人材開発になった」「取引先との関係も深まった」といったメリットが発生している結果が確認されました。これらの幅広い利点が発生していることは、間違いなく、「会社が強くなっている」と言えると考えます。
ISOのBCPの規格では「事業継続は企業の能力」としています。その能力とは、組織をまとめて同じ方向に力づけ、トップと社員が一丸となって、それぞれを活性化させることではないかと思います。