水害のBCPを考える

日本には四季と共に梅雨の季節がある。米作りにとっては恵みの雨である一方、想定外の雨量により洪水※が起きれば、事業の継続や人命に係わる水害にもなる。2018年6月から7月にかけて発災した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の影響は記憶に新しいが、企業活動を脅かす洪水にどのように備えたら良いのか、公益財団法人リバーフロント研究所の土屋信行氏に話を聞いた。

※「洪水」は豪雨により川の流量が多くなり溢れること。「水害」は溢れた水によって住宅などが被害を受けること。

土屋氏は、「洪水に対する備えとは、これから発生が予想される洪水によって、自分たちの住む場所、働く場所の水位がどこまで上がるのかを想像することだ」と強調する。例えば、3メートルの水位まで水が来たら、自分たちの会社は生き残れるのかを想像してみる。会社の倉庫の在庫品が水没しないよう、どのような備えをすれば良いのかを考えれば、製品在庫はオフィスの高所フロアに置く、という風に答えは導き出される。
ただし、被害ゼロを目指すことは極めて難しい。たとえ高層階で浸水を逃れることができても、ライフラインが途絶える上、水がひくまでの2,3週間分の食料や常用薬の備えがなければ生きていけない。だから、まずは過去の洪水パターンを分析し、防災設備の能力を見極めながら、どこかで折り合いをつける必要がある。

画像を確認 土屋 信行氏

洪水パターンを知る

大きく分けて都市型洪水は、以下の4つに分けられる。
①外水氾濫
 強い降雨などにより河川の水位が上がり、堤防の決壊を招き起こる洪水。
②内水氾濫
 市街地などで短時間に局地的に集中豪雨が降り、排水能力が足りずに溜まり続け起こる洪水。
③高潮
 台風と共に海面が上昇し、波浪の影響で海水が来襲し起こる洪水。
④地震洪水
 海抜ゼロメートル地帯の堤防や水門が、地震などにより破壊されて起こる洪水。

長期にわたる関東平野の大規模治水事業により、東京は安全だと思われがちだが、人工の都市であるが故の脆弱性がいたるところに潜んでいる。具体的には、埋立地に高層ビルが建てられ、地面はアスファルトで覆われ、地下鉄が張り巡らされているため、東京の広い地域で特に②内水氾濫が懸念される。また、東京の東部にあたる海抜ゼロメートル地帯では、①外水氾濫や③高潮、④地震洪水に注意が必要である。

ハードとソフトの両方が重要

洪水の多くは、雨季と乾季や台風などの気候変動が原因の多くを占める。従って、ある程度洪水を予測して対応することが可能である。例えば、古来エジプト、ナイル川の河口では、洪水のある雨季には住居を構えず、乾季になったら肥沃な土地で作物を作りながら暮らしていた。
現代では、時期に合わせて場所を移すことは現実的ではないので、浸水を防ぐために止水板を設置するなどの対策が進められている。だが、止水板をどのタイミングで、誰が組み立てるかなどの運用基準を作ることも忘れてはいけない。ここでは、止水板に頼らず洪水対応を乗り切ったニューヨーク市の地下鉄の事例を紹介する。
2012年10月、ハリケーン「サンディ」によって甚大な被害を受けたニューヨーク市では、洪水が予想される24時間前に全ての交通機関を運休することで人々の外出を最低限に抑え、その間、地下鉄内では被災を最小限にするための対策を行った。具体的には、重要な変圧器やモーターなどの電気設備を取り外したり、移動ができない重要備品にはラップを巻いたりなどした。その結果、地下鉄内で死者がでなかった上に、被災後約2週間で運転を再開させた。
このように、ある程度事前に予測ができる洪水だからこそ、水がどこまで来るのか、迫り来る危機に対する想像を働かせ、事前にどのように対応をするか検討をしておくことが重要となる。

土屋 信行氏プロフィール

1975年 東京都入都
     以降様々な要職を歴任
2003年 江戸川区土木部長
2008年 海抜ゼロメートル世界都市サミットを開催
2011年 公益財団法人えどがわ環境財団理事長
現在   公益財団法人リバーフロント研究所理事
     東日本大震災の復興まちづくりの学識経験者委員

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