BCP策定推進フォーラム2017 事例レポート②

災害から学ぶ実践型BCP
北良株式会社 代表取締役社長 笠井健氏

北良株式会社 代表取締役社長 笠井健氏

弊社では、エネルギー分野と家庭用のほか、病院で使う酸素、麻酔、手術用など医療分野へのガスの供給を行っています。オペ室のメンテナンスや、人工呼吸器も取り扱います。東日本大震災では、会社が内陸部にあるので被害自体は直接受けませんでしたが、沿岸部に被災した病院が多数ありました。災害時には医療用ガスの需要が急増します。特に酸素を供給できないと治療に重大な支障をきたすため、工場の復帰に取り掛かりました。

災害時に急増する医療用ガスを病院や在宅患者へ

大型の発電機を調達して医療用酸素の充填を再開し、在宅患者には酸素ボンベを配布する供給地点の情報をラジオで発信しました。普段からラジオ局と繋がりがあり、早い段階で意思疎通ができたことが幸いでした。ツイッターでの通知も行いました。患者さんはお年寄りの方が多いのですが、息子さんや家族がそれを見て伝えてくれました。

緊急車両の登録を3日目に行い、全車両を登録しました。原料酸素の製造プラントも停電していたので県庁を通して電力会社に優先供給を依頼しました。これらも普段から警察や県庁と意思疎通を図っており、その面識が生きたものです。そのほか、県庁からの依頼で、花巻空港に到着したDMATに対する酸素供給も行いました。

当時の輸送手段ですが、ガソリン車が12台、軽油が7台、LPガスで走る車が7台ありました。燃料種を分けてあったことで、輸送が止まらなかったことが結果として大きかったと思います。また、通信手段として携帯電話だけでなく簡易無線も普段から使っていたことが役立ちました。

3.11以降、電源、水、酸素供給、輸送対策を強化

東日本以降の取り組みでは、電源、水、酸素の供給、輸送の対策を行っています。電源は、大型の発電機が一次と二次。燃料種はLPガスとディーゼルです。そのほか、ポータブルの発電機(1500W×4基)による三次バックアップ、更には、外部から発電機、電源車が持ち込まれた場合の接続盤を設置しています。毎月第4金曜日は「発電機の日」とし、全社員が交代で全ての発電機を始動する訓練を行っています。

水に関しては、敷地内に2本の別系統の井戸を掘り、上水道を含めて三系統の水が来るようになっていますが、蛇口を分けて系統表示をし、普段から複数系統の水を使用しています。

医療用酸素のバックアップですが、震災前には、備蓄用の小さい容器をたくさん配布する考え方でしたが、今では大きめのボンベで、目安として24時間、酸素が切れないサイズのものを患者さんの家に普段から置くという対応をしています。そのほか、病院を支援しに行く場合のため、トラックさえ行かれれば通常の病院の中の酸素圧と同じような供給ができる仕組みを作り、それを普段から使っています。

現時点では、ガソリンの供給制限を受けない車両が7割、特にガソリンとLPガスのバイフューエル改造を施した車が一番多くなっています。最長3000km走るプリウスを、地元の改造車メーカーと作り上げました。物があまり運べないというプリウスの弱点を補うために、普通免許で最大サイズのトレーラーを牽引できるようになっています。

BCPでサービスの差別化を図る

BCP・災害対策の負担としては、やはり投資面です。すぐにリターンのあるものではありません。しかし、そこは発想や工夫次第です。ローコストで出来ることがたくさんあります。発想を柔軟にするには外の企業、人材と交わることです。また、弊社では社員の負荷分散と意識向上のために全員が災害担当です。防災を企業の文化とし、「防災経営」として全ての方針、行動に反映させています。そのため、災害対策本部が5分で開設できるようになっています。

BCPのメリットとしては、やはりサービスの差別化になっています。社員の発想や改善もずいぶん柔軟になりました。また、顔が見える組織になり、地域社会との関わりも深くなったことで、社員も定着しています。

我々にとってBCPは、自社のビジネスを継続する計画ではなく、自分たちが業務を継続することで間違いなく誰かの命が助かるという存在になっていくための計画であると考えています。

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