FC加盟店は顧客でもある 需要見極め営業継続を支援 (株式会社ローソン)
コンビニエンスストア大手のローソンは、2008年8月から本格的な新型インフルエンザ対策に着手した。日用生活品や飲食料品を扱うコンビニエンスストアは、市民生活を支える上でパンデミック時でも営業継続が強く望まれる業種だ。一方で、従業員と顧客が接する機会が多いことから、感染防止が対策の上で極めて重要になる。さらに、フランチャイズ加盟店は基本的に独立した事業体であるため、本社社員と同じように指揮命令することはできないなどの難しさもある。同社の取り組みを取材した。
ローソンでは2008年8月、コンプライアンス&リスク管理委員会という、コンプライアンスとリスク管理(災害対応や品質管理など)を検討する社内横断的な委員会の下部委員会として、「新型インフルエンザ検討委員会」を立ち上げた。同じ下部委員会には、防犯・防災小委員会やBCP小委員会もあり、それぞれが連携しながら情報を共有化して対策を進めている。同年12月には、新型インフルエンザの基本的な知識や予防策をまとめた小冊子を策定し、9500の全店舗と、社員、派遣社員、アルバイトスタッフ、主要な取引先など計2万2000人に配布した。
同社コンプライアンス室の新勝幸主事は「まずは新型インフルエンザについて正しい知識を持ってもらうことが重要で、加盟店までを含めた啓発・教育に力を入れることを決めた」と振り返る。
さらに、通常の季節性インフルエンザの予防にも力を入れ、社員だけでなく、加盟店の従業員に対しても予防接種の補助金を出している。「季節性インフルエンザの予防もできないようでは、とても新型への対応はできない(新氏)。一方で、フランチャイズ加盟店は、同社にとっての顧客でもあり、感染 防止策などについて指揮命令することはできないという難しさもある。
コンプライアンス・リスク統括室兼情報セキュリティ統括室室長で、社団法人日本フランチャイズチェーン協会の安全対策委員会の委員長を務める吉田浩一氏は「加盟店のオーナーには、まず、コンビニエンスストアというものが、地震や新型インフルエンザの流行時でも継続すべき社会機能維 持者であることを認識してもらうことから学んでいただかないといけません。だからこそ、自分たちが予防をしっかりしなくてはいけないということを理解していただくことが大 切なのです」と説明する。
ただし、同社の場合、これまで地震など大きな災害があっても、ほとんどの加盟店が店舗を閉鎖するようなことは無かったとする。「オーナーの意識が高いことは、ローソンの最大の強み」と吉田氏は強調する。
加盟店には小冊子に加え、本部と店舗をオンラインで結ぶ「ストアコンピューター」を使って、定期的に 新型インフルエンザに対する情報を発信している。うがい、手洗い、手指消毒、清掃など感染防止の徹底や、仮に感染した際の対応なども繰り返し周知しているという。「最低、月1回はこうした情報を流し、H1N1の国内発生当初などは、毎日のように最新の情報を発信し、冷静な対応を呼びかけた」(新氏)。
マスク着用などで混乱
H1N1の国内発生当初は、他業種で店舗を閉鎖したり、マスクを従業員に大量に配布したことなどがマスコミで大きく報じられたこともあり「このまま営業を続けていいのか」「店舗を閉めたほうがいいか」など、特に関西地区では加盟店にも動揺が見られたという。「弱毒性ということも分かっていたし、冷静に対応するはずだったのだが、周囲の情報に惑わされたことは事実」(吉田氏)
マスクの着用も当初、混乱したことの1つだ。吉田氏は「ローソンとしては、マスクは必ずしも着用する必要がないと考えてた。なぜなら、お客様がマスクが無いと言っているのに、従業員が着用していれば反感を買うことも予想されたし、飛沫感染の防止というサージカルマスクの特性を考えれば、従業員が感染防止を目的につける必要はさほど無いという考え方だった。しかし、同業他社や他の業種まで一斉にマスクを付けると、さすがにローソンだけ配らないわけにはいかなくなった」と当時の状況について話す。
マスクについては、すでに新型インフルエンザ検討委員会で、店舗の判断で自由に着用ができるよう改めており、その後、各店舗がレジ袋と同じように、消耗品としてマスクを発注・確保できる体制を整えた。
「花粉症対策だけでなく、普通の風邪にも有効ですから、各加盟店の判断に任せて着用してもらうようにしている」(新氏)一時的な備蓄ではなく、日常的に社内流通の中で在庫を確保することで、取引先も安定して生産できるようになるとのねらいもある。そのほかに本社では緊急時用のマスクを保管している。
実は同社の場合、もともと感染症対策として、O-157や結核などを想定した対応マニュアルを策定し、各店舗へ配布している。新型インフルエンザ対策は強毒性H5N1を想定しているが、「基本的には、他の感染症対策に準じた形」と新氏は説明する。
さらに、日常的に「フライドフーズ」などの店内調理商品を販売していることから、各店舗にはアルコールスプレーなども整備されて おり、「手洗いうがいの励行をして、マスクをしながらアルコールスプレーを使って商品を販売すれば、二次感染は防げるはず」と過度な対策は行わない方針を示す。
強毒制の新型インフルエンザが流行しても、「お店を閉めるような要請はおそらくしないでしょう」と吉田氏は語る。そんな状態になれば、全国のあらゆる店舗が閉鎖になり、日本経済や、市民の生活は完全に麻痺してしまうからだ。「国や行政(保険所など)の指示に従って冷静に対応することが基本。ただし、営業時間については我々に限らず、各業種、店舗とも考えるかもしれない。強毒性ともなれば、従業員の確保も困難になるため、現実的に24時体制は難しいはずです」(吉田氏)。
需要見極め営業支援
一方、本社では、各加盟店が営業継続できるように支援することを最重要業務に掲げ、BCP小委員会と調整しながら、具体的な手法を検討している。他の災害との大きな違いは、新型インフルエンザではITが動くことを前提にしているということ。もちろん、保守メンテなどの人材確保は課題とするが、既にWeb会議やTV会議システムが整っていることに加え、モバイルなどによる在宅勤務体制も整備されていることから、インフラについてはそれほど不安はないとする。特にコンプライアンス&リスク管理委員会では、日常的にTV会議を採用している。「普段から使いなれることが、被災時に確実にシステムを使う上で重要なこと」(吉田氏)。
問題は人材の確保だが、同社では政府想定などより高い、50%の欠勤率を前提に、事業がまわせる体制を構築している。各店への運送などの業務は、仮にスタッフが大幅に欠勤しても継続しなくてはいけないため、本社として縮小できる業務について見直しを進めているとする。例えば、イベントやスポーツ、各種公演などのチケット販売業務は、こうしたイベントが中止になることも考えられることから、縮小させる―など。
このほか、加盟店への営業継続の支援として、現在、H1N1の当初流行時における顧客動向の分析を進めている。地震災害などにおいては、カップ麺や飲料水、懐中電気が売れるなど、特有の消費動向があることが一般的に知られている。同社では地震のような大型災害直後には、需要が高いと思われる商品を、被災状況を見極めながら各店舗からの要請により追加納品ができるシステムを整えている。これと同じように、パンデミック時においても、特に関西地域において独特の消費傾向が見られたと新氏は説明する。オフィス街や学校、都市部、郊外など立地や、時間帯によっても需要が明らかに変化したと言う。
こうした分析により、パンデミック時に需要の高い品物が品切れになることがないよう、あらかじめ重点的に準備・配送するなど、各店舗の安定した営業体制を支援していきたい考えだ。
吉田氏は最後に家庭にけるインフルエンザ対策に有効な備蓄について、「1週間分は備蓄をしておいた方がいいでしょう。災害の想定であればライフラインや物流のストップも考慮して3日間と言われているが、インフルエンザだと1週間外出できないケースも考えられる。1日1食の想定でもいいから、高カロリーなものを用意すると安心」と説明。備えの重要さを説明した。
(了)