栗山自動車工業株式会社
専務取締役 栗山 智宏 氏
管理本部長/東京営業所長/営業推進課課長 三浦 哲 氏
Q.会社の概要を教えてください。
当社は、昭和41年、江戸川区の本社所在地で、現会長(栗山義孝氏)が「栗山自動車」の屋号でトラック解体業として創業しました。当時は、トラックの「中古」という概念が一般的でなく、耐久性も高くありませんでしたので、1台を10年ほど使い、使い終わったら素材に戻す。鉄、アルミ、その他金属、木材、ビニール、プラスチックを分別してリサイクルするというのが、創業から現在まで続く当社の仕事です。
その後、平成8年に会社設立し、トラックの耐久性向上とドライバーの労務関係法令の厳格化が進む中で、現社長(栗山義広氏)の代に替わり、15年ほど前から中古トラック販売事業が大きく成長しました。現在、千葉県佐倉市に確保した約1万坪のヤード(モータープール)を中心に、東京、千葉、神奈川の3拠点で全国に向けて事業展開しています。また、右ハンドル車が流通するアフリカ東部の諸国とも活発に取引しています。社員は全体で102名になります。
Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。
当社の本社は、江戸川の堤防が決壊した場合に1〜3メートルの浸水が予想されます。江戸川区では早くからハザードマップを公開しており、当社でも事業継続に対するリスクとして水害への対策を講じるように、現社長が指示を出していました。また、東日本大震災では、東北のお客様や友人の周りでも本当に多くの方が亡くなられました。もし当社が被災した場合、全社員の命、家族の命を守れるのかを考えると、備えが必要なことは明らかでした。
そして、令和元年の2度の台風により、千葉支店の社員の暮らす地域が被災しました。1〜2週間の停電が発生し、コンビニもガソリンスタンドも営業を停止していたため、東京から食糧や水、ガソリンなどを運んで対応しました。
そうした経験から、水害を含む全方位でのBCP策定に向けて動き出すことになりました。2020年には新型コロナウイルス感染拡大を受け、手順化の必要性を痛感したことから、東京都中小企業振興公社によるBCP策定支援を得て、感染症を中心としたBCPを策定することになりました。
Q.策定したBCPの概要を教えてください。
基本として発災後2週間の対応を想定しました。まず命を守る行動が一両日。その後、会社の中心となる中古車販売事業を復旧させるまでに1週間。付帯する事業を含めて全体的に復旧させるまでに2週間というステップです。
東京、千葉、神奈川の三拠点のうち、事業継続上のリスクが高いのは、ヤードを備えた千葉になります。千葉が被災した場合、東京と神奈川から同じ業務ができる人を応援派遣して補充する体制をとります。被災直後に表面化する一番の問題は、中古車販売のための自動車整備に必要となる電力と考えています。
被災時の連絡手段は、“LINE WORKS”という法人向けサービスを使います。通信網が生きている場合は、このアプリを使って連絡を取りながら、事前の計画に基づいた一律の指示によって各拠点で動いていきます。通信網が途絶えてしまった場合には、印刷された指示書を道しるべとし、支店長が中心となって判断することになります。
東京本社では、社員の6割が江戸川区民ですが、帰宅困難となった場合に備えて本社から至近の場所に防災備蓄倉庫を設置しています。40人1週間分の食糧のほか、安全防具などを用意しています。今回の助成金により、安全靴、防災リュック、医療品や担架も購入しました。この倉庫は、冷凍トラックの荷箱に遮熱ペイントを施して活用しているものです。
東京本社の電力は、基本的にどんな状態でも維持できるようにしました。本社向かいの当社建物上に設置したソーラーパネルにより、エアコンを使用しない状態であれば、停電時でもパソコン作業や電話対応が可能です。また、本社別棟には、今回の助成金を活用して購入した発電機を設置しており、同棟が本部機能を備えた復旧基地となる想定です。
BCPに基づく訓練は、安否確認や集合場所の確認など簡単なものを3回ほど実施しましたが、大規模な演習はまだ行っていません。策定したBCPは、“画に描いた餅”ではないつもりです。今後、訓練をどれだけ積み上げ、実践できる人をどれだけ増やせるかが課題です。
Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?
助成を申請するに当たり、テンプレートを使用する前に、まったく白紙からBCPを作成してみました。しかし、我流で考えていたものと、プロの方がたくさんの経験から作られたものでは雲泥の差でした。苦労はたくさんありましたが、常にブラッシュアップし、アップデートを重ねていくものだと思っています。
Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?
最悪を想定することをリアルに考えという点では、本当によい訓練になりました。全員がハッピーエンドにならないのが現実だと思っているので、そこまでシビアに考えたのは大きなことでした。一昨年来のコロナ対応では、濃厚接触を含め、感染の恐れがある場合には正直に申し出てもらえるよう、「怖がらせない」ことを一番のポイントとして取り組んできました。それにより、二次感染防止の対応がスピーディーになり、業績低下の回避につながります。また、社員を大切にする会社の姿勢も伝わると思っています。
Q.公社の支援に対するご感想は?
本当に感謝しています。金銭的な支援とともに、いつかやらなければと思っていたことへ一歩踏み出すきっかけとなったことは有難かったと思います。
Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?
私たちは、中古車販売を通じて“交通インフラ”を支えている一社だと思っています。物流を途絶えさせることは、誰かの生活を途絶えさせることになるので、そこに強い責任感を持っています。経営理念に打ち出している「3R」(Reduce、Reuse、Recycle)は、物の流れであり、それを止めないことは事業継続にもつながると思います。
また、「お客様と地球を笑顔にする」という会社のスローガンを10年前に定めましたが、地球環境への負担を最小限に抑える取り組みにも、BCPは生かされるものと思います。