【感染症対策BCPの好事例紹介】
日美商事株式会社 常務取締役 岡 正道 氏

Q.会社の概要を教えてください。

我々日美商事は、電線ケーブル・化成品諸材料の総合商社です。当社はアルミニウムの原料であるボーキサイトをオランダから輸入するために「日蘭商事株式会社」という社名で、1938年に設立されました。戦後、現社名に改称してからは、古河電気工業の電線やケーブル、付属品などの国内販売を開始して今に至ります。とくに近年は情報通信分野に強みを持ち、光ファイバーケーブルをはじめ、LANケーブルなどの周辺機器の販売に注力しています。

岡常務取締役

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

私たちが最初に「感染症BCP」を策定したのは2017年2月。きっかけとなったのは、第三者評価によって認証される「エコステージ認証」です。当社は大手電線メーカーの代理店としてのお取引や、大手企業への納入業務を行うためにエコステージの環境活動に取り組み、環境に配慮した調達ガイドラインや、法令の遵守などの体制づくりを実施して認証を受けました。
このエコステージの環境活動の一環で健康経営にも力を入れているため、社員の健康維持を目的とした「感染症BCP」の策定を決めたという経緯があります。そして同時期に東京商工会議所が「感染症対応力向上プロジェクト」を立ち上げたので、当社も同プロジェクトに申し込みました。実際の策定は、東京商工会議所から配布されたe-ラーニングの教材で勉強しつつ、お借りしたBCPのフォーマットを自社用にアレンジして行いましたね。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

初版は、季節性インフルエンザや麻しん・風しんなどの感染症を対象に策定しましたが、2020年のBCP改定(第3版)時に、新型コロナウイルス向けの項目も複数追加しました。
そのひとつが、社員が新型コロナウイルスなどの感染症に罹患したケースを想定して設定した「出勤差し控え期間」です。たとえば、新型コロナウイルスに感染した社員に対して「発症翌日から2週間は出勤しない」、「濃厚接触者は最終接触日から7日間の外出自粛」など、該当者が取るべき行動も記載してあります。
そして、2020年4月以降は社員全員(一部を除く)が在宅ワークを実施しており、在宅ワーク用のパソコンを購入し、社員に渡しました。在宅ワークが難しい管理部門でも業務を行えるよう、経費精算用ソフトや勤怠管理システムを順次導入し、段階的にデジタル化を進めてきています。
そのほか、感染症により出勤不可能者が増えた場合に、必ず継続しなければならない最優先業務と、縮小・休止する業務を部門ごとに分類しました。自社の売上・利益確保に影響が大きい「受発注業務」を継続する重要業務に指定し、縮小する部門は「管理部門」と定めています。そして、縮小した部門の社員には受発注業務に就いてもらい、最低人数を社内に残して、そのほかは在宅ワークをする体制も整えました。当社の社員は24名と少ないので、業務が滞らないように調整した緊急時の人員配置は我々の感染症BCPの肝になっています。

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

初版を策定したときは、さまざまな試行錯誤がありましたね。東京商工会議所からフォーマットをいただいたとはいえ、自社に合わせてカスタマイズする工程には、時間がかかったのを覚えています。ただ、当時の苦労があったからこそ、コロナ禍でも迅速に対応できたのはたしかです。

Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?

普段の感染症対策として、オフィスの入口に非接触式の手指消毒器や体温計を設置して、消毒と検温を確実に実施、又オフィス内の小まめな換気を心掛けています。また、社員の時差出勤や在宅ワークなど“働き方”のスケジュール管理を行い、社内で作業をする人数を調整しています。
また、オンラインでの商談をお客さまが希望された場合は、オンライン会議ツールで対応します。加えて、以前は行っていなかったオンラインでの採用活動も実施するようになりました。zoomでの採用面接は難しい部分もありますが、北海道にいる人も面接できるようになり、出会う人材の幅が広がっていますね。

在宅ワークも実施しつつ、オフィスの各デスクにはパーティションを設置している

また、BCPは現在の状況に合わせた改善が求められるので、毎年改定する機会を設けています。各部門のBCP担当者を通して現場の声を取り入れ、会議を開いて時代に合った内容に変えていく……。BCPは一度策定して終わりではなく、常に改善する必要があります。

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

2017年の時点で、すでに感染症BCPを策定していたので、2年前に新型コロナウイルスの感染が拡大した際は慌てず対処できました。もちろん新型コロナウイルスに関する内容は新たに追加しましたが、過去の経験を元にスムーズに策定できたのは大きなメリットですね。

Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

多くの企業がそうだったように、当社もコロナ禍の影響で経済活動が中断し、2020年は売上高が急激に落ち込んでしまったのです。我々はこの経験から、エコステージ活動を通した「SDGs未来経営宣言」を掲げました。年度ごとに定める短期的な経営戦略ではなく、3年先、5年先を見据えた経営を目指しています。たとえば、感染症BCPの策定によって、社員の健康を維持する健康経営を行うことは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」を可能にするはず。これからも、持続可能な社会の実現に日美商事が少しでも貢献できるよう、PDCAを回して自社のBCPをさらに充実させていきたいです。

日美商事で社員を対象に行われた「健康経営」に関する勉強会