【感染症対策BCPの好事例紹介】
三多摩清掃事業協同組合

理事長 加藤宣行氏(加藤商事株式会社)
実行委員長 矢部要氏(丸順商事有限会社)

Q.組合の概要を教えてください。

加藤氏: 三多摩清掃事業協同組合は、2020年に設立60周年を迎えました。
現在の会員数は37社。青梅市などの西多摩エリア、三鷹市などの北多摩エリア、八王子市を含む南多摩エリアの3エリアで、ごみの収集業務や一般廃棄物の処理工場を運営している企業が加入しています。

加藤理事長

矢部実行委員長

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

矢部氏: 我々清掃事業者は、災害など有事の際もごみの収集を行い、街を清潔に保たなければなりません。そのため、BCPという取り組みが注目される以前から、地震などの災害発生時でも事業を継続し、社員を守る仕組みづくりをしていました。2019年には、経済産業省から災害時における「事業継続力強化計画」認定をいただいています。そして、2年前に発生したパンデミックをきっかけに、すでに策定してあった感染症対応のBCPに“新型コロナウイルスに準じた対応策”を追加しました。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

矢部氏: 我々のような収集・運搬・処分などを行う廃棄物の処理業者や、その他廃棄物の処理に関わる事業者は「国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者」として地域に関わっています。感染拡大中も業務を続けるためにも、感染のリスクは少しでも下げなければなりません。
そこで、BCPの項目でもっとも重視したのは「廃棄物処理における感染予防対策」でした。私たちは、医療機関や検査機関から感染症の診断、治療・検査で使われた“感染症廃棄物”や、感染者がいる一般家庭、宿泊療養施設から出たティッシュやマスクもごみとして収集します。しかし私たちには、感染者がいる家庭や宿泊療養施設の個人情報は知らされないので、個別の対応はできません。
そこで自衛のためにも、作業中のマスク着用を徹底し、収集車の窓も開放して換気を心がけています。作業後は車両内や携帯電話、スマートフォンなどの機器をアルコール消毒し、作業服を脱ぐときは裏返し。マスクを外す前には手洗いと手指消毒をするなど、収集作業関連の内容はかなり細かく策定しましたね。

加藤氏: そのほか、地震・水害発生時のBCPにも通じる取り組みとして、組合加入企業の全社員に「ANPIC」というスマートフォンアプリをインストールしてもらっています。災害発生時に、ANPICを通して全従業員に通知が届き、社員から安否の報告ができるツールです。カスタマイズによって、社員の健康状態を管理できる機能もつけられるので、インフルエンザ流行時やコロナ禍でも活用できるツールです。組合や加入企業では、普段からアプリの使用に慣れてもらうために、年に数回ランダムに通知を送って安否確認訓練も行っています。

矢部氏: ちなみに、各企業のANPIC導入費用は、三多摩清掃事業協同組合に負担してもらっています。出費を抑えられるのは、会員としてもありがたいですね。

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

矢部氏: 組合のBCPだけでなく、各企業でBCPを策定するのが理想ですが、組合員間でも“温度差”があり、その差を埋めるのに苦労しました。感染の状況を見つつ、BCPの理解をさらに深める勉強会や意見交換会を行いたいですね。

三多摩清掃事業協同組合の会員向け「BCP講習会」に登壇する加藤氏

加藤氏: 同感です。私もBCPに抵抗感がある社長さんの元に足を運んで、BCPの必要性を説明したり、ご家族にお願いしたりしました。BCPは仕事や、社員の雇用を守るためにも必要な施策なので、今後も地道に説得をつづけていきます。

Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?

加藤氏: 日頃から注力しているのは“感染症対策”ですね。当社では、感染力が強いオミクロン株の新型コロナウイルスが流行しているので、感染者が出ることを想定した収集運搬形態に切り替えました。通常よりも少人数の収集群を作って20分おきに業務を行うので、もし感染者が発生した場合でも影響を最小限に抑えられます。また、作業後のうがい手洗いに加えて、事務所内にあるシャワールームで体を洗うように伝えていますね。

矢部氏: 事務所内の三密回避も重要です。企業によっては、終業時刻が17時であっても、収集業務が終われば15時30分に社員を退社させるケースもあります。事務所に残るのは2名だけなので、密を避けられますよね。当社でもマスクの着用も徹底し、マスクを外して利用する喫煙所の利用人数は“1人”に定めています。

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

矢部氏: 自社や加入している組合がBCPを策定していると、社員が「自分の会社は、いざというとき対応できる」という安心感を得られるメリットは大きいです。
また、年に1回行われる自治体の「安全大会」などで、加藤理事長が組合のBCP策定について発表して情報発信も積極的に行っています。清掃事業者のイメージアップは、結果的に私たちの仕事・雇用を守ることにもつながるはずです。

加藤氏:  “組合”としてBCPの策定に挑む例は少ないと、策定のサポートをしてくれた、東京都中小企業団体中央会の方から言われました。
BCPの策定は、私たちの「エッセンシャル・ワーカー」としてのモチベーションも上げてくれました。社員一人ひとりから、自分たちは社会に必要な仕事をしている、という意識の高まりを感じていますね。

Q.BCPを今後貴組合の運営にどう生かしたいですか?

ゴミ収集時に市民から寄せられたメッセージの数々

加藤氏: コロナ禍を機に、市民のみなさんの廃棄物に対する関心が高まっています。一時期は、感染リスクが高い作業員への風評被害があり、精神的に辛い時期もありました……。その一方で、市民の方から作業員宛にあたたかいメッセージをたくさんいただく機会もあり、今は市民にとってさらに身近な存在になれたように思います。BCPの策定は、あくまでスタートライン。今後はBCPの見直し・改善を継続的に行ってBCM(Business Continuity Management)を実現したいです。