【感染症対策BCPの好事例紹介】
繁栄株式会社 代表取締役 林 繁行 氏
Q.会社の概要を教えてください。
設立は1987年。もともとは親類が立ち上げた企業を譲り受けたのがはじまりです。30年近く不動産賃貸業を軸にしてコインパーキング事業も同様に行っていましたが、3年ほど前にコインパーキングを事業譲渡。その後、コインパーキングと同じく、人を常駐せずに行えるコインランドリー事業をはじめました。現在は不動産賃貸業とコインランドリー事業、コンサルタント事業に取り組んでいます。
Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?
昨今のコロナ禍で、コインランドリー事業が大きな打撃を受けたのがきっかけです。とくに、お年寄りの利用者が多い地域での売り上げが急激に落ち込みました。やはり、コロナの重症化リスクが高い高齢者層は外出を控えていて、不特定多数が利用する洗濯乾燥機を使うのもはばかられるようです。コインランドリーが近所に住むお年寄りの交流の場になっている、という現場に何度も同席したことがあり、社会的意義を感じていたので残念ですが、仕方がない部分もありますよね。
そこで何か手を打つ方法はないかと、模索していたときに東京都中小企業振興公社がBCPの策定支援をしていると知り、勉強会に参加しました。
Q.策定したBCPの概要を教えてください。
当社では「従業員あるいは来店者に感染者が発生した場合」を想定して、BCPを策定しています。コンサルタントの方が用意してくれた「パンデミックタイムラインシート」に沿って、それぞれのフェーズで必要な対策を定めました。
私たちが感染症の被災時に優先する業務は、従業員による週に5日の店内清掃業務と、売上回収業務です。ヒトからヒトへの感染が増加している証拠がある「パンデミックアラート期」のフェーズ4に入った段階で、対応策として日常の清掃業務に必要なマスク・手袋などの備品の在庫確認を行います。用意するのは3カ月分です。
もしもスタッフや来店者に感染者が発生した場合には、店舗を閉鎖して保健所に報告を行います。専門業者による迅速な対応が難しい場合、防護服などを着用して防護体制をとって自社で清掃を実施する予定です。
じつは、今回のBCP策定を通して、コインランドリーの業態と感染症対策は共通点が多いことに気づきました。たとえば、清掃に必要な備品や消毒液は、コロナ禍の前から数カ月分ストックしてあり、2020年に衛生商品の売り切れが相次いだ時期も、以前からストックしていた備品を不足している店舗に届けて乗り切れました。なので、今後も通常通り営業しつつ、BCP策定で得た学びを生かしていく予定です。
Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?
策定そのものは、コンサルタントの方と話し合いながらスムーズに進みました。大変だったのはそのあとで、昨年8月に私自身が新型コロナウイルスに罹患してしまったんです。幸い重症化することなく、自宅療養と投薬で完治。
もともと私は店舗にはあまり行かないのでスタッフにも会っておらず、業務に支障はありませんでしたが、当時はすでにBCPを策定していたので、慌てずに対処できました。
Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?
以前よりも空気の入れ替えは意識するようになりました。大筋の業務内容は同じですが、スタッフには自動ドアを開放したまま清掃を行うように伝えてあります。
ただ、コインランドリーをはじめる際、任意ですが、保健所から換気を良くするように指導されていたので、当社の店舗はもともと換気できるようになっています。そのおかげで、新たに換気設備を導入する必要もありませんでした。
Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?
先にも触れた通り、コインランドリー事業は感染症対策と親和性が高いので、大きく変わった点はありません。しかし、BCPを策定する前はその事実すらも知らなかったので、とても勉強になりましたね。
誰も経験したことがないパンデミックのシミュレーションができる、という意味でも、感染症向けのBCP策定はとても有意義な経験でした。
Q.公社の支援に対するご感想は?
勉強会も参加しやすく、リーズナブルな値段で「BCP策定コンサルティング」を受けられたのもありがたかったです。また、専門家ならではの視点でアドバイスをもらえたので、さまざまな気づきがありました。今回策定した内容をたたき台にして、地震向けのBCP策定にも取り組みたいと考えています。
Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?
BCPの策定を通して、私の業務を代替できる人員が不足している、という課題が見えてきました。コインパーキング時代から、なるべく少人数で行える事業を目指してきましたが、私以外が経営に携わっていない今の状況では、非常時に事業の継続が困難になる可能性が高い。そうしたリスクを避けるためにも、経営判断ができる人員を育成する必要性を感じています。今後、事業継続を意識した経営体制を整える際にも、BCPを活用したいですね。