平岡織染株式会社 代表取締役会長 平岡義章氏
Q.会社の概要を教えてください。
当社は、産業用に使われるテント材・防水布のメーカーとして明治35年に創立。今年で118年目を迎えます。本社は東京都台東区三ノ輪にあり、国内拠点では埼玉県草加市に工場と研究所、滋賀県草津市に滋賀ターポリン工場、大阪市内の淀屋橋に大阪支店を展開しています。従業員は国内約220名。海外はオーストラリアのメルボルン、アメリカのロサンゼルス、中国の青島と上海に自社拠点を展開するほか、浙江省に合弁会社を設立しています。
主な製品は、一般に合成帆布と呼ばれるトラック用の軽量帆布や、工場内で使用されるテント倉庫の材料である建築膜材料、また当社がパイオニアである工事現場用の防炎メッシュシート「ターポスクリーン」をはじめとするメッシュ類などです。
Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。
BCPが大切だということは、過去の様々な自然災害の経験から認識しており、亡くなった私の父である前会長も非常に気にかけていました。本社ビルは2003年の100周年に建設したものですが、震度7でも倒壊しないようになっています。各工場も耐震構造です。
当社がBCPに取り組み始めたのは、東日本大震災の半年ほど前からです。コンサルタントの先生を1人雇い、プロジェクトチームをつくって着手しました。震災当日は偶然にもBCP作成の最終日で、帰宅不可能になって会社に泊まるという経験をしました。その経験も踏まえて2011年8月、曲がりなりにも完成したわけですが、その後のリニューアルが疎かになり、当時の雛形で本当に役立つだろうかという疑問もあり、この半年以上をかけて実践で使えるようなBCPをつくろうとリニューアルに取り組みました。
Q.策定したBCPの概要を教えてください。
3.11の頃につくったBCPは大雑把なものでしたが、今回は大水害、大地震、スーパー台風、富士山の噴火の各ケースを想定し、いざという時の実践まで落とし込みました。特に、大水害は新たな視点です。例えば、本社所在地である三ノ輪は、ハザードマップによると荒川の洪水時に1.5メートルほど水没する可能性があり、そうなると従業員も出社できない。本社ビルも1・2階が水没し、1カ月ぐらい入れないかもしれません。
その場合の対応は2通りです。草加工場がまだ水害に遭っていない場合は、草加工場に仮の本社を立ち上げて出荷を可能にする。帆布専用とメッシュシート専用のラインを備える滋賀工場は、山の上に立地しており洪水は考えられませんので、通常通りです。
一方、本社とともに草加工場の機能も失われた場合は、滋賀工場をベースとしてオペレーションを行う体制になります。データはバックアップのために普段から草加と滋賀へ日ごとに送られていますので、そのデータを元にお客様とやり取りしながら早期復旧を図ります。また草加工場では、機械のモーターやシーケンサー、電気器具のスペアを用意しておき、水が引いたらいち早く交換します。水濡れした機器の復旧を専門とする協力会社にも支援を要請します。
Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?
東日本大震災の被災当時、一番困ったのが資材調達の関係でした。その経験から、協力会社や資材メーカーなど取引先のBCPを確認し、被災時の体制についてしっかりと議論しています。それから、BCPはトップ主導でやることになっていますが、トップだけが知っていても動かないわけです。何かが起こった時に、上から指示がないと動けないようでは困ります。各セクションがいざという時に自分たちの役割を果たせるように周知しているところです。
Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?
社員のマインドは高いですね。防災訓練などの際にハザードマップや動画などを全員で共有し、そのマインドを常にリニューアルさせたいと思っています。マインドの高さは、やはり東日本大震災を実際に経験したからということがあります。
Q.公社の支援に対するご感想は?
BCP専門家のコンサルタントの方に的確に当社のBCPをアドバイスいただき、また違う角度で新たに立派なBCPをつくることができました。しかも、それを1日で大変スピーディーに手際よくできたので、大変ありがたいと思いました。これからも、プロの目から見てこうすべきではないかということがあったらアドバイスを受けるなど、どんどん肉付けしていきたいと思っています。
Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?
備えあれば憂いなし、ということです。BCPに取り組むことで、例えば、購買や営業の取引先リストを整えることができたわけです。いざという時、そのリストを使って迅速に連絡できるということはかなり大きいと思います。担当者ベースでなく、リストをつくり、データベースあるいは紙ベースで全員が取り出せるようにする。BCP策定の取り組みがなければ、やらなかったことだと思います。企業経営の面から見ても、やはり必要だと思います。