村田顕吉朗税理士事務所 所長 村田顕吉朗氏
Q.会社の概要を教えてください。
2012年に開業した社員10人の小さな税理士事務所です。中小企業や個人事業主を対象に税金の申告をサポートするとともに、お金の出入りを全部見せてもらう関係から、経営全般の相談に乗り、コンサルティングも行っています。その一環で保険の仲介業にも登録、経営者が万が一病気や事故に遭っても会社が維持できるよう金融面からの備えを提案しています。顧客は1都3県にわたりますが、おおむね9割が会社から1時間圏内。毎月1回の定期訪問を基本サービスとしています。
Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?
当社での業務は現在、データがすべてサーバーに入っていて、パソコンからアクセスすればどこでもできます。逆に、電源が落ちてしまうと何もできません。それでは困るということで、蓄電池を購入しようと某ハウスメーカーに相談したところ、BCP策定に対する公社の補助制度を教えてもらいました。それがきっかけです。
加えて、当社は個人事務所ですから、万が一私に何かあれば事業が即終わってしまいかねない状況に置かれています。リスクに対して弱いことを常々実感していましたので、どの道、BCPは策定しなければならないものでした。補助金もいただけるのであれば、一石二鳥だと考えたわけです。
Q.策定したBCPの概要を教えてください。
大きなリスクとして首都直下地震を想定し、そのうえで我々が最も継続しないといけない優先事業を決算業務と税務申告業務に設定しました。我々の成果物は税務署に出す届出書や申告書ですが、基本的に必ず期限があり、1日でも遅れるとペナルティーが科せられます。お客様の利益に直接影響しますから、これを止めないことを第一に考えました。
届出書や申告書の提出期限は、月末がほとんどです。仮に20日に地震が起こった場合、1週間後の27日に復旧できれば何とか月末までに間に合います。また25日に発生した場合は、おそらく大半の仕事は終わっていますので、3日後の28日に復旧すればギリギリ月末に間に合います。そうした逆算を行い、復旧目標を3日、最大7日と設定しました。
我々の活動に必要なものは、一つが人、もう一つが電気。この2つがあれば自宅でも仕事はできます。そのため地震発生の際は、とにかく自分の身の安全を守ることを最優先にしています。ただしデータベースにアクセスできないと作業ができませんから、電源確保のために蓄電池を購入しました。
Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?
当社の業務は定期的にお客様のところに訪問しますので、社員の不在が多くなります。地震が起きたとき、会社に誰がいるのかがわかりません。もちろん私が不在の場合もあり、インターン生だけの場合もあり得ます。発災時の責任者を固定できないため、順番を決めて臨機応変に対応するかたちにしました。ただ、そのためには全員がやるべきことを理解している必要があります。そこが難しいところでしたね。
Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?
コンサルタントの方にファシリテーションをしていただき、全員参加で計画をつくったことは、社員の意識向上に役立ったと思います。勤続年数の短い社員やインターン生からも発言が出て、非常に盛り上がりました。具体的なイメージがないといざというとき動けませんが、どんなリスクがどこにあるかを全員で洗い出し、そのときどう動くか一つ一つ考える機会を持てたのはよかったと思います。リスクが明らかになったことで、たとえば「帰らない」「出勤しない」などのルールを新たに決めるとともに、会社で何日か生活するための備蓄品もあらためて購入しました。組織の連帯感が強まったと思います。
Q.公社の支援に対するご感想は?
真っ先に思ったのは、補助制度が「知られていない」ということでした。こんなにいろいろな支援をされているに、もったいない気がします。もっと広くアピールされていいと思いますし、半面、手続き的にもう少し書類が簡素化されると、さらに使い勝手がよくなると感じました。
支援内容については、専門のコンサルタントによる講習を最初に半日、その後に1日、計2回受けさせてもらいました。非常に安価で、ありがたかったですね。その点でも中小企業や個人事業主の方に制度をもっと知ってほしいですし、私もお客様のところに行くたび紹介しています。
Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?
「当社でBCPを策定しました」と、客先の社長のところに話のタネとしてもっていけるのが大きなメリットです。自社で策定したので実感をもってお話できます。私としては、当社が受けたようなBCPのコンサルティングを、今度は当社主導でお客様にできればいいと思っています。コンサル収入になれば最高ですが、そこまでいかなくても、当社のアピールポイントになると思っています。
また先ほど、万が一私に何かあった場合の事業継続リスクが大きいとお話しましたが、今回のBCPである程度対策ができました。私に何かあったときの差し迫った事態として、書類が間に合わず申告ができないことがあり得ます。これに対しては友人の税理士の先生を相談先とするようBCPに明記しました。この体制は平時の事故や病気のときにも応用できると思っています。