株式会社長沼製作所 代表取締役社長 長沼秀一氏
Q,会社の概要を教えてください。
当社は、創業から約100年の食品機械メーカーです。元々、曾祖父が雷門で包丁の販売をしていたことをきっかけに、1951年に長沼製作所を設立しました。祖父の時代に、日本にドイツの食品機械が入ってきましたが、ドイツの機械が日本の高温多湿な環境に合わないため、独自に食品機械の開発に取り組み、現在の業態を確立しました。現在は挽肉をはじめ、様々な食材を加工する食品チョッパーなど、食品機械の製造・販売・メンテナンスを行っています。
Q,なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。
当社は27名ほどの会社ですが、浅草本社、曳舟工場、仙台営業所があります。東日本大震災では、仙台営業所が被災しました。幸い従業員は無事でしたが、仙台が受け持つお客様は大きな被害を受けました。当社でも以前から災害時の備蓄品など、対策は講じていましたが、実際の被害を目の当たりにし、備えが足りなかったと痛感しました。災害時に当社従業員の生命を守る備えができるなら、これまでの企業利益をBCPに投資しようと決意しました。
Q,策定したBCPの概要を教えてください。
基本的には、従業員が無事でいてくれるための施策です。さらに従業員の家族も無事であること。落ち着いたら、お客様にいかに早く当社のサービスを提供できるかを考える。これらを基本方針としてBCPの策定に取り組みました。私は、従業員に「まず生きて欲しい」といつも言っています。まず自分のことを考えて、家族のことを考えて、落ち着いたらお客様のことを考えて行動しないと、本当に商売を失うことになります。また、当社では独自に安否確認カードを作って配布しています。安否確認のための手段は、電話、メール、アナログ電話、留守番電話などです。災害時は、IP電話は繋がらないと思うので、当社ではバッテリーで稼動するアナログの電話も残しています。さらに、全ての回線にNTTの転送機能を導入しており、東京で災害が起こった場合には、仙台を中継基地にすることもできますし、安否確認やお客様への連絡にも利用できます。仙台が拠点になる可能性もあるわけですから、今後は東京の情報をどうやって仙台と共有するかも考えて行きたいです。
Q,BCP策定過程で苦労したことは何ですか?
まだ始めたばかりで、苦労とは言えないかも知れませんが、従業員のBCPへの認識がまだまだ薄いことでしょうか。毎日の仕事が忙しい中で、まだ起きてもいない未来のことを考えることが、自分の問題として認識できない。これが率直なところです。全ての従業員にBCPの必要性や意味を理解してもらうには、予想以上に時間がかかると感じています。実際に大災害が起これば、何を準備していても、結局はみんな慌ててしまいますよね。私は、形式的な避難訓練より、災害時に明確な旗振り役を決めておくことが重要だと思っています。
Q,日常業務でBCPを策定した効果はありますか?
今回BCPの策定を経験して、策定したマニュアルに沿って行動すれば、被災したお客様のサポートも可能になる。そんな確信も生まれましたし、お客様には当社がBCPを備えた企業であることをアピールできるようになりました。これは、企業として将来的に大きな信用に繋がると思いますし、従業員にとっても大きな安心感に繋がると考えています。BCP策定以前に比べると、従業員同士のコミュニケーションも上手くいっているように感じます。BCPには、会社の組織に横串を入れる効果もあるのかではないかと思っています。
Q,公社の支援に対するご感想は?
講師の方がとても専門的な知識をお持ちで、災害に対する自分達の不安や疑問も払拭できたし、色々勉強になりました。結局、災害時に誰がどうする?など具体的な流れを作るのが大事であると実感しました。従業員には、場面場面を説明してもなかなか理解に繋がりませんが、マニュアルが完成し、実際にどうしたらよいのか具体的な流れができたのは助かりました。今回の支援は、都内企業向けのBCPサポートなのでやむを得ませんが、当社は仙台にも拠点があるので、今後は自力で横展開を検討したいと考えています。
Q,BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?
私の強い想いでもあるのですが、人は心が落ち着かないと、人のことを思ったり、助けようと思えません。そこで力を入れたのが、食べ物、寝床、情報(ラジオ)、光。この4つを備えれば、人の気持ちは落ち着きます。心が落ち着けば、心が外に向いて行きます。余裕もできるし周りを助けようという気持ちも生まれるでしょう。マニュアルも大切な要素ですが、私はこんな想いでBCPに取り組んでいます。この活動は継続的に続けて行きたいです。備蓄品は当然耐用年数があるので、期限切れ間近の備蓄品は従業員に配布していますし、会社だけでなく家庭でも災害袋等を準備するよう意識付けをしています。時間をかけて従業員の意識を高めていくことで、将来的にはこのBCPを会社の一体感に繋げられれば嬉しいです。残念ながら、今は社長が勝手にやっているという印象ですが、「雨降って地固まる」ように時間は掛かりますよね。従業員の中で、備えが大事だという意識が自然に生まれてくるまで頑張ろうと思います。
(了)