内外香料株式会社 取締役管理部部長 榎本とし恵氏

内外香料株式会社 取締役 管理部部長 榎本とし恵氏

Q,会社の概要を教えてください。

弊社は食品関係の香料を専門に扱う会社。1946年にバニラフレーバーの販売をきっかけに、お菓子に使われる各種フレーバー(液体香料)や、ポテトチップス等に使われるシーズニング(粉末調味料)などを製造しています。顧客は大手の製菓会社から、町のお菓子屋さんまで様々です。東京台東区内に管理・営業部と開発部の2事務所があり20名、千葉県成田市に製造拠点である成田事業所があり、社員・パート含め42名、全62名の従業員で運営しています。

Q,なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

大きな転機となったのは東日本大震災でした。本社のある東京圏内は交通機関が停止。成田事業所も震度6弱の地震に見舞われました。弊社の仕入先様からの原料供給がストップしたり、運送会社が集荷に来られない状況になりました。お客様からは平常通りご注文が入るのに、お客様のご希望通りに製品をお届けできない。弊社にとって製造者としての供給責任を改めて突き付けられた出来事でした。

震災後、これまで弊社が積み重ねてきた品質管理や迅速対応という特長をもう一度再確認し、客観的に評価を得たいと考え、ISO認証取得にチャレンジすることを決め、2014年に品質マネジメントシステム「ISO9001」を認証取得できました。さらに迅速対応の点から「BCP(事業継続)」の必要性も感じ、社長を含めた役員とBCP委員会のメンバーで独自に計画策定の準備をすすめていたところ、ISO22301に準じたBCP策定プログラムを中小企業振興公社さんが企画されていると聞き、参加したのがきっかけです。

内外香料が取り扱う香料製品

Q,策定したBCPの概要を教えてください。

BCP策定に当たって想定したのは、震度6以上の首都直下型大地震。東京本社、営業所が被災し事業再開できない状況になった想定です。目標は、震災発生後1週間で、基幹であるフレーバー事業で主要顧客の供給を100%復旧すること。いくら自社が被災したとしても、顧客メーカーの業務を止めてはいけない。それには1週間以内の復旧が限度と考えました。

こうして主要顧客リストと目標復旧時間を洗い出すことで、緊急時に備えて在庫すべき製品種別と在庫量を定量的に確認することができました。また今回、工場内の機械設備が故障して稼働停止した場合の検討もでき、秤(はかり)等を稼働させる非常電源さえあれば、あとは人力でも製品出荷できることを社内で共有できました。

代替施設として、成田事業所のほか、関西に別拠点も検討しましたが、現状ではその余力はない。他社との提携関係を結ぶことも考えましたが、やはり配合は企業秘密の部分が多く、提携も簡単ではないと諦めました。決定的な解決策はまだ見つかっていませんが、今後20年、30年の大震災に備えて検討していかなければいけないのは確実で、対応を急いでいくつもりです。

製造拠点である成田事業所

Q,策定過程で苦労した点はありますか?

まずは何をどうすればよいのか全く分からない状況でした。でも全3回の集中研修と個別コンサルティングによって、まずは、何を、何日間で、どこまでのレベルまで復旧するか、という目指すべき目標が明確になりました。この講習をきっかけにBCP委員会メンバーが同じ方向を向いて課題を考えられるようになったのは大きかったです。

BCP策定当初は、成田事業所にBCP委員会メンバー3人を指名して、策定した計画に対して意見をもらいましたが、役員側と、成田事業所の社員メンバーとの間で危機感の温度差があり、正直心配になるときもありました。その点、演習訓練は大きな効果がありました。先日、震災発災時に「社長も私も出張中」「成田事業所長が外部研修中で不在」「事業所内には負傷した従業員もいる」、という設定での演習訓練を行った結果、ようやく現実問題として考えられたので、当事者意識を持つことができたのではないかと実感しています。

BCP策定会議の様子

Q,BCPを策定したことにより、日常の経営面でも何か効果はありましたか?

2018年1月の大雪では、通常契約している4社の運送会社がすべて成田事業所に集荷に来ることができない事態になりました。東京本社で、出荷予定のすべての顧客に連絡をとり、必要な出荷量を洗い出すと同時に、様々な運送会社に相談しました。結局1社日本郵政の「ゆうパック」で発送が可能とわかり、急遽郵便局に製品を運び出荷しました。それから数日後、成田事業所のBCP委員会メンバーが、今回の件で、どのような対策をとればよかったか、成田の従業員に対してアンケートを取ったと聞き、「これまでとは確実に意識が変わってきた」と嬉しくなりました。

Q,普段やっていたことでBCPに役立ったと思うことは

これまでも顧客満足度の向上として、迅速対応を行っています。迅速対応については昔からいる従業員が難しい注文にも可能な限り対応してきた社風があり、これがあるので弊社を利用し続けてくれているという顧客も多いのです。新たに取り組んできたBCP策定が、実は脈々と会社の文化として根付いてきたものに通じている。成田事業所の従業員たちが積極的にBCPに取り組んでくれているのは、そういう気づきがあるのではと感じています。

Q,今後の課題、さらに取り組みたいことなどありますか。

継続していくことです。弊社では月1回各部署代表メンバーが集まる会議では、毎回BCP委員会が近況報告する場を設けました。またより身近に情報を触れて、意識を高めてもらえるように、東京本社と成田事業所のトイレ壁の一角に、BCPの啓蒙と活動報告をする小さな掲示板をつくりました。「なぜトイレの壁なのか?」といえば、邪魔にならず、ふとした時に目に着く場所として最適だからです。BCPとはどういうものか。緊急時にはどんな行動をとるか。毎月掲示を切り替えて2年余り続けています。

もうひとつは、PDCAを回していくことですね。今後も公社で演習訓練に特化したプログラムを企画していただきたいと思いました。BCP策定がゴールではなく、継続して訓練を実施していく必要性があると全社員が認識できて、各自当事者意識が芽生えれば、社員から改善案が生まれて、よりよい計画を育てていくことができると考えています。

社内トイレに設けた、BCP啓蒙のための小さな掲示板

(了)

ニュートン・コンサルティング株式会社
コンサルタント 平田 恭子

危機意識が非常に高く、すでに自社内にてBCP関連の対策をされており、策定だけでなく参加者への教育という目的も達成することができました。「今できることは可能な限りする」という、後藤社長をはじめとする参加者皆様の思いを感じ、強く印象に残る支援となりました。